ターゲットはアメリカ大統領。ブロードウェイミュージカル『ASSASSINS(暗殺者たち)』あらすじと感想

こんばんは、うめこです。

今回は不穏な題名のブロードウェイ・ミュージカルをご紹介したいと思います。

その名も『ASSASSINS』!訳すと『暗殺者たち』。楽曲はうめこの大大大好きなブロードウェイの作曲家スティーブン・ソンドハイム氏。

一本のストーリーがあるわけではなく、オムニバス的に実在した9人の暗殺者たちを描いた作品です。もうこのコンセプトだけでうめこはワクワクしてしまいます!こんな題材を取り上げてしまう巨匠ソンドハイム、最高です。

9人の暗殺者たちのターゲットは全て同じ、歴代のアメリカ大統領です。

暗殺者といっても、成功した者と失敗した者がいて、それぞれの動機と背景があります。彼らが何故そのような凶行に走ったのかということに焦点を当てることにより、その時代の闇が浮き上がってきます。

巨匠スティーブン・ソンドハイム

まず、作詞作曲を担っているスティーブン・ソンドハイム氏についてご説明したいと思います。

うめこは、亡くなった作曲家の中でのトップはモーツァルト、

ご存命の作曲家の中ではスティーブン・ソンドハイムが頂点だと思っています。

存在自体がミュージカルの歴史そのもの!!そして、彼の後継者はリン・マニュエル・ミランダであるとも勝手に思っています。

1930年のニューヨーク生まれで、7歳からピアノを習い始めています。10歳の時に両親が離婚し、母親に引き取られました。しかし生涯を通して母親との関係は悪く、母親の葬式に参列をしなかったほどでした。

特筆すべきは、青年時代に友人の父親であった作詞家オスカー・ハマースタインⅡ世から、非常に高度なミュージカルについての教育を受けたということ。ハマースタインは亡くなるまで、ソンドハイムにとっての父親の代わりであり、師匠であったそうです。映画化してもいいぐらいのドラマチックな生い立ちですよね。

25歳の時にレナード・バーンスタイン作曲の歴史に残る名作『ウェストサイドストーリー』の作詞という大役を果たします。

その後、

1971年 『カンパニー』

1972年 『フォリーズ』

1973年『リトル・ナイト・ミュージック』

1979年 『スウィーニー・トッド』

1988年 『イントゥ・ザ・ウッズ』

1994年度『パッション』 でミュージカル界におけるアカデミー賞、トニー賞作曲賞を受賞しています。まさに、歴史に残る大偉人!

「Sunday in the Park with George」(1984)ではピュリツァー賞受賞しています。

彼の曲の特徴としては、言葉を話しているときの抑揚に近い、音の上下を最低限に抑えたメロディにあると思います。そこに言葉に乗せていく。作詞も手掛けることのできるソンドハイムだからこその、独特な楽曲だと思います。しかし、この淡々としたメロディに強い爆発的な歌詞を乗せるとき、かえって人間の生々しい感情や姿が強調されるのです。

ミュージカル『カンパニー』のマリッジ・ブルーをテーマにした「 Getting Married Today 」など、こんな曲、ソンドハイムにしか作れない!と思います。花嫁の不安と陰鬱な感情がほんっとうによく表現されているんです。

すみません、愛が強すぎて作曲家紹介が思いの他長くなってしまいました・・・

暗殺者のご紹介

まずはジョニー・ブース。リンカーン大統領を暗殺したことで有名です。うめこは元々、ケネディ大統領暗殺のリー・ハーヴェイ・オズワルドと、彼しか知りませんでした。余談ですが、暗殺現場であったフォード劇場は今も劇場として運営されていまして、うめこは一度ここで観劇したことがあります。リンカーン大統領が狙撃された席には星条旗が掲げてありました。

うめこの手元にあるCDは初演オリジナルキャストではなく、2004年のリバイバル上演版でして、このジョニー・ブースはマイケル・サーヴェリス(Micheal Cerveris)が演じています。彼はソンドハイム作品では大変重要な役者ですので、少々ご紹介を。

超美声のバリトンで、抜群の歌唱力を誇る方であります。2015年第69回トニー賞主演男優賞を受賞していますが、この時はなんと渡辺謙も同じ賞にノミネートされていました。本当にお人柄も素敵な方で、自慢なのですが、うめこ、この方とは直接お会いしたことがございます。日本からきた英語の下手くそな田舎者にも親切に接してくれて、スキンヘッドの方なのですが、冬の寒いニューヨークなのにわざわざ帽子をとって、一緒に写真を撮ってくれました。この場をかりまして、あのとき、極寒の中一緒に出待ちをしてくれた友達に感謝申し上げます!

贔屓の方だったため、役者の説明が長くなってしまいました。

もうひとつうめこの趣味全開の補足をしますと、このミュージカル、2014年でロンドンでリバイバルしたときにはジョニー・ブース役をアーロン・トヴェイが演じているんです!アーロン・トヴェイとはヒュー・ジャックマン主演の映画『レ・ミゼラブル』で学生運動の先頭に立っていたアンジョルラスを演じていたビジュアル良し、歌よし、演技良しの素晴らしい俳優です。

あーあーあー、アーロンのジョニー・ブース、観た過ぎる!!!

さて、ジョニー・ブースが暗殺を決行した理由には歴史的な背景が強く関わっていました。彼は奴隷解放に対して反対の立場をとっていて、「奴隷解放宣言」をしたリンカーン大統領を憎んでいました。

彼の思想の是非はともかく、 狂言回しの「どうして大統領を暗殺したの?」という問いに対して、 朗々と歌い上げる「THE BALLAD OF BOOTH」は圧巻の一言。その独唱最後でブースは自らの頭をピストルで撃ち抜きます。(ここは舞台上の演出で、史実では軍人に狙撃されたらしいです)

続きましてはジュゼッペ・ザンガーラ。演じるのはジェフリー・クーン。彼の物語の前に、時間を越えて他の暗殺者たちが、ザンガーラの不満に耳を傾け、「それならば大統領を暗殺したらどうだ?」をそそのかす場面があります。ルーズベルト大統領にピストルを向けるザンガーラ。しかし、共にいた市長を殺害したものの、大統領暗殺は失敗。彼は電気椅子にくくりつけられ、「私たちが大統領を救ったのよ!」と自慢する民衆に囲まれながら処刑されていきます。この処刑シーンの歌が軽快なマーチになっていて、明るい分逆にメチャクチャ怖いんですよね。この場面だけでも、「絶対子どもに見せたくない」ミュージカルなんです。

次の実行者はアナーキスト(無政府主義者)のレオン・チョルゴス。演者は ジェームズ・バーバー。 彼の標的はマッキンリー大統領であり、バッファローで行われていた博覧会にて暗殺に成功します。余談ですが、オーリトリアの皇后エリザベートを暗殺したルイジ・ルキーニもこのアナーキスト(無政府主義者)でしたね。

そして、お次はうめこがミュージカルの歴史の中で最も恐ろしいラブ・ソングであると認定している「UNWORTHY OF YOUR LOVE」。一組の男女が舞台に現れ、愛を歌うのですが・・・

My,dearest Jodie.

I would swim oceans.I would move mountains,I would do anything for you.What do you want me to do?

『ASSASSINS』Ryrics and Music by STEPHEN SONDHEIM ” UNWORTHY OF YOUR LOVE ”

僕の最愛のジョディ。

僕は君のためなら海だって泳ぐし、山をだって動かそう。君のためなら何だってできる。君は僕に何を求めるかい?

『ASSASSINS』Ryrics and Music by STEPHEN SONDHEIM ” UNWORTHY OF YOUR LOVE ”

一見、歌詞もふつーのラブソングですよね。メロディもソンドハイム色が薄めで、非常にロマンチックなメロディラインの曲なんです。続きまして、女性のパート。

I am nothing,You are wind and devil and God,Charlie,Take my blood and my body For your love.

『ASSASSINS』Ryrics and Music by STEPHEN SONDHEIM ” UNWORTHY OF YOUR LOVE ”

私にはあなた以外何もない。あなたは風であり、悪魔であり、神であるのよ、チャーリー。私の血も体も、あなたへの愛に捧げるわ。

『ASSASSINS』Ryrics and Music by STEPHEN SONDHEIM ” UNWORTHY OF YOUR LOVE ”

まあ、ちょっときな臭くはなってきましたが、普通と言えば普通の陳腐な歌詞。

しかし種明かしをしますと、この男女は実在の暗殺者であるジョン・ウォーノック・ヒンクリー・ジュニアと、リネット・フロム。

ヒンクリーは女優ジョディ・フォスターに執拗なストーキング行為を繰り返していたことで有名であり、「大統領を暗殺するぐらいのことすれば、彼女は自分に注目してくれる」と思い込み、暗殺未遂に至ります。つまり、歌詞中の「ジョディ」はストーキング相手であるジョディ・フォスターであるのです。ひいぃ。

リネット・フロムはカルト宗教の教祖であるチャールズ・マンソンに心酔していたという背景があります。チャールズ・マンソンについては詳しい説明は止めておきます・・・まあ、つまりこちらの歌詞中にある「チャーリー」はチャールズ・マンソンというわけです。

舞台上で二人で美しいメロディーを歌っていても、それはお互いへのラブソングではなく、てんでバラバラの対象に向けられた、一方通行な狂信的な愛の歌だったというわけです。これは本当に曲を聞いただけではわかりません!うめこも最初にその意味を知ったとき、鳥肌がたちました。

さて、最後に紹介するのは暗殺者たちの物語の集大成、ケネディ大統領暗殺のリー・ハーヴェイ・オズワルド。演じるのはニール・パトリック・ハリス。何度もトニー賞の司会をした名優です。

オズワルドを、歴代の暗殺者たちが囲み、口々に唆します。「大統領を撃ち殺せ」と。最初は困惑していたオズワルドも最終的にはライフルを持ち、引き金を引きます。

「誰にだって幸せになる権利がある」

ミュージカル『ASSASSINS』は最初と最後の曲が同じ題名です。

「Everybody’s Got the Right」誰にだって権利がある。

Everybody’s got the right to be happy.Don’t be mad.Life’s not as bad as it seems.

Everybody’s got the right to their dreams.

『ASSASSINS』Ryrics and Music by STEPHEN SONDHEIM ” Everybody’s Got the Right ”

誰にだって幸せになる権利がある。そうふて腐れないで。人生はそんなに悪いものじゃない。

誰にだって夢を叶える権利がある。

『ASSASSINS』Ryrics and Music by STEPHEN SONDHEIM ” Everybody’s Got the Right ”

いやあ、暗殺者に「夢を叶える権利があるんだよ」とか言われても困る・・・って思った方もいるかもしれませんが、これも全て皮肉を込めてなんだろうなとうめこは思います。

「誰にだって幸せになる権利はある。夢を叶える権利はある」じゃあ、あなたたちはどんな風にそれを達成する?私たちは自分で考えて、こんな風に行動したよ、悪い?と、観客に向けて作品そのものが挑発してきているのではないか、という気にすらなってきます。

流石ソンドハイムの選ぶ題材です、本当に一筋縄ではいきません。

さて、このミュージカルは残念なことに日本で上演されたことがありません。うめこは勝手に、その願いを宮本亜門氏に託しています。数々ソンドハイム作品を演出してきた方ですから、いつか、『ASSASSINS』の日本公演を・・・!!

今回、随分と毒気の強い作品をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。うめこは今後も少しずつ、ソンドハイムの布教をしていきたいと企んでいます。

ではでは。

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