誰もがほんの少しだけ差別主義者。毒っ気たっぷりの異色ミュージカル『AvenueQ』あらすじ紹介

こんばんは、うめこです。

今回はすこし大人向けのミュージカルをご紹介したいと思います。2004年トニー賞にて作品賞を受賞している異色ミュージカル『AvenueQ』!アベニューとは大通りのこと。ニューヨークのQ番外に集うはみ出し者の住民たちを描いた作品です。

作曲者はロバート・ロペスとジェフ・マークス。あまり作曲家の名前ではピンとこないかと思いますが、恐らく日本に住んでらっしゃる皆様は必ずこのロバート・ロペスの曲は聞いたことがあるはずです。

その曲とはレリゴーこと大ヒット作『アナと雪の女王』の主題歌『Let it go』

ただし、『Let it go』は彼一人の作品ではなく、妻であるクリステン・アンダーソン・ロペスとの共作ですね。

『AvenueQ』の一番の特徴は、セサミ・ストリートを思わせるようなパペットをふんだんに使った演出です。

一見みんな可愛いお人形でほのぼのした作品なのか?と思ってしまいそうですが、歌もセリフもストーリーもまさに猛毒!

人種差別、LGBTを真正面から取り上げるブロードウェイ・ミュージカルならではの非常に思い切った作品です。

ミュージカル『AvenueQ』あらすじ

大学を卒業し、希望いっぱいでNYのQ番街(AvenueQ)で暮らすことになった主人公・プリンストンはそこで様々なはみだし者達と出会います。

Q番街の仲間は、会社を首になった無職のブライアン、その婚約者でお客の来ないカウンセラーの日本人・クリスマス・イブ、神経質でゲイの銀行員のロッドとそのルームメイトのニッキー、 幼稚園で働くことを夢見るケイト、インターネット依存症で引きこもりのトレッキー、かつては人気子役だったが今は落ちぶれてアパートの管理人をしているゲイリー・コールマンなどなど。

うめこは単純なもので、ミュージカル作品に日本人がいると、ちょっと嬉しかったりします。そうそうないですけどね。

『IT SUCKS TO BE ME』 最低なボク・ワタシ

のっけから『AvenueQ』の世界に叩き込まれるのが、住民たちの自己紹介をかねた「It Sucks To Be Me」!みんななんだか残念な境遇で「自分はなんてサイテーなんだ!」と口々に嘆きます。

まず登場するのはケイトとブライアン。「小さいころにはお笑い芸人になりたかったのに、32歳になった今、なーんにもない!それどころか無職だ!」とブライアンが訴えれば、ケイトは「私なんてこんなに可愛くて心が広いのに、彼氏がいないのよ」と嘆きます。

続いて登場したのは喧嘩中のロッドとニッキー。二人は同居中ですが、片方は下着にアイロンをかけるほどの潔癖、片方はずぼらと相性は決してよくないようです。「君との生活は地獄みたい、こんなの最低だ!」とののしり合う二人の間に割って入ったのはブライアンの婚約者で日本人のクリスマスイブ。・・・ってか、日本人なのになんでこんな名前なんでしょう?そのネーミングの謎はいまだに分かっていません。

とにかく、彼女も不満をぶちまけます。「目的をもってこの国に来たのに、今や韓国デリで働いている毎日・・・私は日本人なのに!セラピストの資格もとったのに、お客は来ない・・・しかも婚約者は無職!」と、こちらもなかなかの状況です。

ちなみに、ミス・クリスマスイブの上記の歌詞はNYオリジナルキャストでの初演のもの。この作品は2010年に来日公演を行っているのですが、うめこの記憶では、この時の歌詞は「中国料理店では働けない・・・私は日本人」と変更されていました。2010年は尖閣諸島をめぐる争いが激化し、日中の関係が悪化していた時期でしたので、皮肉をこめて改変されたのかな?と当時印象に残った覚えがあります。オリジナルキャストでは日本人ではなく、日系アメリカ人のアン・ハラダさんが演じています。

住民の最低合戦のラストに登場するのは、皆のアパートの管理人、ゲイリー・コールマン。彼は幼いころは人気子役でしたが、稼ぎはすべて親に使われてしまい、すっかり落ちぶれてしまっています。それでも、ここの暮らしはそう悪くないよ、一緒に暮らそうと新たな住人プリンストンを歓迎する一同。鍵を手にしたプリンストンは、正式にアベニューQの仲間となります。

Avenue Q Trailer

『IF YOU WERE GAY』もしも君がゲイならば

さあ、次も『AvenueQ』節が炸裂します。こちらは上の動画の3曲目でちょっと紹介されてますね。雰囲気が伝わると思います。

この場面で主役となるのは潔癖銀行員のロッドとルームメイトのニッキー。ネタバレしてしまいますと、ロッドはゲイ(同性愛者)で、ニッキーに思いを寄せています。しかし、ニッキーはストレート(異性愛者)。わかりやすく例えると、

ドラマ『おっさんずラブ』の春田と牧の関係ですね!!

春田=ニッキー、牧=ロッドというわけです。ただし、ニッキーはかなり意地悪・・・だって要約するとこんな歌詞なんですよ。

「ねえロッド。君がたとえゲイでも僕は何にも気にしないよ。ま、僕はゲイじゃないけどねー!」

お前、気づいてるだろおぉ、そうやって茶化すなよおぉ、と観客としては若干イライラするシーンでございますが、二人を演じるのがパペットなことと、パニックになって否定しまくるロッドがコミカルなのとで全然重い感じではありません。でも、場合によっては本当に残酷なシーンなんですよね。

後々、『FANTASIES COME TRUE』というロッドが夢の中でニッキーと両思いになってはしゃぐ歌があるのですが、それがまた夢から覚めた後が切ないんです。しかも、最後におバカニッキーが住民たちとのパーティで酔っ払ってロッドがゲイであることをバラし、慌てたロッドが誤魔化そうとして早口で歌う『MY GIRL FRIEND, WHO LIVES IN CANADA(僕の彼女はカナダに住んでいる)』がまた・・・切ないよ!!

てか、ニッキー最低!!

これはアウティングという大変非常識な行為ですので、どんなにコミカルに描かれても、やっぱり、ニッキーはダメダメですよ、まったく。 

アウティングゲイレズビアンバイセクシャルトランスジェンダーLGBT)などに対して、本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向性同一性等の秘密を暴露する行動のこと。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 アウティング

『EVERYONE’S A LITTLE BIT RACIST』誰もがちょっぴり差別主義者

これこそ、うめこ的に『AvenueQ』真骨頂のナンバーです。公式トレーラー動画の二曲目です。

主人公プリンストンがケイトに何気なく問いかけるところから始まります。

「ねえ、ケイト。君はモンスターなんだから、上の階のトレッキーとモンスター同士で付き合ったらどうなの?」

そこでケイトが激怒します。

「なんでモンスターだからって、モンスターと付き合わなくてはならないの?!差別!」と。

これは例えば色んな人種が暮らしている中で「日本人は日本人同士でくっつけば?」と言われたようなものだってことですね。これは悪気はなくても、気持ちのいい提案ではないですよね。

Everyone’s a litte bit racist,sometimes.Doesn’t mean we go around committing hate crimes.   ~

Maybe it’s a fact we all should face.Everyone makes judgments… based on race.

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” EVERYONE’S A LITTLE BIT RACIST “

誰もがちょっぴり差別主義者、時々ね。別にヘイトクライムを犯しているという意味じゃない。

私たちはこのことを知っておいた方がいい。皆、人種で人を見ている。

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” EVERYONE’S A LITTLE BIT RACIST ”

このシーンでうめこが好きなのが、日本人のミス・クリスマスイブがからかわれるところ。「RとLの発音の区別がつかないよ!」と日本人英語あるあるを指摘されているんですよね。これはうめこにも身に覚えが・・・!

そしてそのからかわれたミス・クリスマスイブが「私だって差別主義者よ」と、

The Jews have all the money,and the whites have all the power and I’m always in Taxi-cab with driver who no shower!

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” EVERYONE’S A LITTLE BIT RACIST ”

ユダヤ人は全てのお金を握っていて、白人は権力を持っていて、タクシードライバーはシャワーを浴びていないんでしょ!

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” EVERYONE’S A LITTLE BIT RACIST ”

と、こちらも自らの中にある偏見を正直に歌い上げます。

一見、お互いを罵り合うどうしようもない場面にも思えますが、ここで大切なのは「自分の中にも差別意識や偏見がある」ということを認めること。それが、本当の意味で相手を思いやることの第一歩になること、ということかなとうめこは解釈しています。「私は差別なんてしてない!」と言いながら、それがポジティブなものであれネガティブなものであれ、それぞれの人種へのイメージを持っているというのが一番たちが悪い!ということですね。

NYという様々な人々の行きかう場所にあるブロードウェイだからこそ、人種差別は昔からとても大切なテーマとして取り上げられてきました。

うめこが本当に衝撃を受けたのは『南太平洋』という古典名作ミュージカルのこの歌詞でした。

You’ve got to be taught from year to year, It’s got to be drummed In your dear little ear.You’ve got to be carefully taught. You’ve got to be taught to be afraid of people whose eyes are oddly made,and people whose skin is a diff’rent shade,You’ve got to be carefully taught.

Musical 『South Pacific 』Music by Richard Charles Rodgers and Lilycs by Oscar Greeley Clendenning Hammerstein II

あなたはとても注意深く、長い年月を経て教え込まれてきたんだ。小さいころから、親しい人から。目の色が違う人、肌の色が違う人々を恐れるようにと、注意深く教え込まれてきたんだ。

Musical 『South Pacific 』Music by Richard Charles Rodgers and Lilycs by Oscar Greeley Clendenning Hammerstein II

1950年、今から70年近く昔の作品ですよ!

たびたびご紹介してきたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリーを見たり、最近のニュースを見たりするとアメリカに対して「そりゃないよー」と思うことも多々あるのですが、どうしてもうめこがこの国を嫌いになれないのは、こうした国や文化の闇を真っ直ぐに見つめて、その疑問を芸術や文学に昇華していく姿勢が大好きだからなんです。特に、ブロードウェイの鋭い視点には本当にいつも驚かされます。

『THE INTERNET IS FOR PORN』インターネットは●●●のため

ストレートすぎるのこのタイトル。ロペスさん、いいですねえ。まあ、実際に経済の発展は成人ビジネスが支えてきたという説があるそうです。

先生を目指すケイトが子どもたちにインターネットについて教えようと思って計画を立てているときに、ネット中毒者のトレッキーが茶々を入れるというシーンです。ここにケイトといい感じになりつつある主人公プリンストンも加わって、わやくちゃな歌になっていきます。ほら、ミュージカルって大人のためのものでしょ?って言いたくなる一曲。歌詞は結構そのまんまなので・・・載せません!!

上に貼りました動画の一曲目がこれですね。

『I WISH I COULD GO BACK TO COLLEGE』大学時代に戻りたい

大学に限らず「ああ、学生時代に戻りたい!」って思うことありますか?うめこは、めちゃくちゃあります!特に、今、自分が馬鹿すぎて常識が足りなーい!もっと勉強しておけばよかった!って時にしみじみ思います。それも専門知識じゃなくて、地理とか政治とか、一般常識に疎かったときに・・・・

I Wish Icould go back to college. Life was so simple back then.

I need an academic advisor to point the way!

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” I WISH I COULD GO BACK TO COLLEGE ”

大学時代に戻れたら。あの頃の人生はとってもシンプルだった。

指導教官に行くべき道を教えてほしい!

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” I WISH I COULD GO BACK TO COLLEGE ”

学生時代って、人間関係の密接さで苦しむこともありますが、「生きる」ことに関しては守られているのは確かなんですよね。社会に出たらもちろん指導教官なんていませんから、何かに迷ったら適切な専門家を自分で探して、時にはお金を払ってアドバイスを貰うしかありませんし。そういう壁にぶち当たったとき、この曲のタイトルを繰り返してしまいそうなときはありますねー。

『FOR NOW』大切なのは今!

色々ありましたが、主人公プリンストンはガールフレンドとなったケイトの夢に協力し、ブライアンとミス・クリスマスイブは結婚し、住民はそれぞれの「今」を一生懸命生きていこうとラストソングを高らかにうたいます。

Is Only for now!(Your hair!)

Is Only for now!(George Bush!)

Don’t stress,relax,let life roll off your backs expect for death and paying taxes,everything in life is only for now!

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” FOR NOW ”

今だけなんだからね(君の髪も!)

今だけなんだからね(ジョージブッシュも!)

ストレスを感じないで、リラックスして、死ぬことと税金を払うこと以外のことには、

あんまり気負わないで。人生は全て今だけなんだから!

Musical『AvenueQ』 Music and Lilycs by Robert Lopez and Jeff Marx  ” FOR NOW ”

時々入り込む毒気が最後まで『AvenueQ』らしいです。補足しますと、このミュージカルが開幕したあたりはアメリカ大統領ジョージ・ブッシュ氏が色々やらかしていた頃でありました。ここが日本公演では当時同様に色々やらかしていた「エビゾー」さんになっていました!流石!

さて、『AvenueQ』はなんと今年2019年の5月に最終公演を迎えました。終わってしまったのはさみしいですが、2004年からの驚異的ロングランです。作品に対して厳しいブロードウェイではどんなに製作費がかかっていても、どんなに有名俳優を起用していても、観客に認められないと一か月で閉幕してしまいますから、この作品がどれだけ愛されていたかわかります。

またいつかリバイバルで再会出来ることを願って、ご紹介いたしました。

少しでもこの作品や、ミュージカルにご興味を持っていただけますと幸いです。

ではでは。

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