
今回はうめのお気に入りミュージカルTOP10常連のミュージカル『Billy Elliot』についてご紹介していきたいと思います!
舞台版のDVDも発売されている、超有名作です。
『Billy Elliot』ってこんなミュージカル
原作:映画『Billy Elliot』 邦題『リトル・ダンサー』
作曲:エルトン・ジョン
脚本・歌詞:リー・ホール
演出:スティーブン・ダルドリー
2005年 ロンドン初演
2006年 ローレンス・オリヴィエ賞4部門受賞(最優秀新作ミュージカル賞・最優秀作曲賞等 )
2008年 ブロードウェイ進出
2009年 トニー賞10部門受賞(最優秀ミュージカル脚本賞・最優秀ミュージカル演出賞・同賞主演男優賞部門等)
2017年 日本人キャストによる日本上演
軽く紹介するはずが、あまりに華々しい受賞歴のせいで長くなってしまいました!
下手すると1ヶ月で上演終了となってしまうミュージカルの世界で、これは文句なしに殿堂入りの作品であると言えます。
とはいえ、最初からヒットする要因は相当揃っていました。
ここがすごい!Billy Elliot
・有名映画が原作である
うめこも元々大好きでした。名作!
・監督、脚本、演出に映画の製作陣
映画の舞台化はここ十年ほどであらゆる作品で行われています。ただ、どんな名作映画でもその素晴らしさを継承しつつ、舞台ならではの新鮮さを観客に与えられないとあっと言う間に見放されてしまいます。
そんな中で、この作品はがっちりと原作の製作陣が舞台に関わることで映画の持っていた大切なものを損なわずに作られています。
・作曲家にエルトン・ジョン
もう、うめこが詳しく説明する必要もないでしょう。歌手としてご存知の方が多いと思われますが、作曲家としてもミュージカル界で大事なお方。ライオンキング、アイーダ等のディズニーミュージカルの楽曲を手掛けています。
Billy Elliot ビリー・エリオットあらすじ ※ネタバレ注意
舞台は1984年、マーガレット・サッチャー時代のイギリス。11歳のビリーの暮らす町はかつて炭鉱で栄えていましたが、サッチャー首相の赤字炭鉱閉鎖計画によって閉鎖の危機にありました。
ビリーのお父さんと兄のトニーも炭鉱夫。熱心にストライキへ参加し、日々閉鎖計画と闘っています。
「男の子ならボクシング!」というお父さんの言いつけでビリーは教室に通っているのですが、友達を殴るのが嫌で練習を誤魔化す始末。
そこで偶然、女の子達のバレエレッスンに飛び入り参加してしまい、それをきっかけにバレエに魅了されてしまいます…
さて、政府VS労働組合のこぜりあいが激化する中、ビリーはボクシング教室に行くふりをしてこっそりとバレエレッスンに励む日々。バレエを教えるウィルキンソン先生も彼の才能を確信し、一層厳しく、時には母親のように見守ります。
警察と労働組合の衝突すらも歌で!
この作品の中で、うめこが最も舞台ならではの力を発揮していると感じるのが『Solidarity』。この曲は、警察と労働組合が激しくぶつかりあう場面と、ビリーが少女たちをバレエレッスンに励む場面とを同時に表現してしまっているのです!このわやくちゃぶりに、舞台ってすごいなあと思わせる力強さがあるんですよね。これ、本当に舞台や映像で見て欲しいです。
好きなものを好きって言って、何が悪いの?
ビリーを取り巻く登場人物も皆とっても魅力的。特に、友達のマイケルは舞台でも大人気ですね。マイケルはビリーと同じボクシング教室に通っているのですが、やはり殴り合いは好きじゃない。自分のパンチで倒れたビリーに「ごめん!」と謝って、先生に「試合で謝るな!」と叱られます。ある日、マイケルの部屋をビリーが訪れると、なんとお姉ちゃんの服を着て、メイクバッチリの彼が!ビリーに見られても堂々としたもので、「この服が君にぴったり!」とあれよあれよとビリーまで着替えることになってしまいます。
ここで歌われる二人のデュエットが本当に可愛いのです!
expressing yourself? Being who you want to be?
Will anyone die if you put on a dress?
『Billy Elliot the musical』Book and lyrics by LEE HALL , Music by ELTON JOHN ” Expressing Yourself ”
もっと君を表現してごらんよ。どんなものになりたいかって。
君がドレスを着たからって、誰かが死んじゃったりなんてしないでしょ。
『ビリーエリオット ザ ミュージカル』脚本・歌詞 リーホール、音楽 エルトン・ジョン ” Expressing Yourself ”
とタップダンスを交えて、茶目っ気たっぷりに歌います。
この曲、コメディ調でありながらなかなか深い歌詞なんですよね。バレエが好きなことに対してお父さんに「男らしくない!」と言われ、自分も時々「男がバレエするのはおかしいの?」と悩むビリー。そこで、「君が好きならいいんだよ!」と、自身も目一杯「好きなもの」を楽しむマイケルが励まします。
余談ですが、うめこの好きな漫画に『着たい服がある』(常喜寝太郎 講談社)という作品があります。ゴスロリの世界に少しずつ踏み出していく女の子の話なのですが、自分の好きな格好と、世間の視線の間での葛藤が本当に繊細に描かれているんです。
もう1つ思い出すのが、油絵で東京芸術大学を目指す高校生の描いた『ブルー・ピリオド』(山口つばさ 講談社)。主人公の美術仲間にやはり女装で生活する男子高校生が、「俺の”好き”だけが、俺を守ってくれるんじゃないかなあ?」と泣きながら気持ちを吐露するシーンがあります。
うめことしては、いつか「女装」「男装」という言葉そのものが過去のものになり、ただ無数の「私の好きな格好」があふれる世の中になればいいのになあ、とこれらの作品に触れて思うようになりました。
さて、楽しいひとときの後は波乱が待ち受けています。
ウィルキンソン先生の提案で、バレエ学校の名門ロイヤルバレエスクールへの入学試験に挑むことにしたビリー。しかし、運悪く試験当日に過激な抗議活動により兄のトニーが怪我をし、ビリーは家に留まるように命令されてしまいます。実はお父さんとトニーには内緒で試験に行こうとしていたビリー。先生との約束の時間が過ぎ、とうとう心配してやってきたウィルキンソン先生によって受験のことがお父さんとトニーに知られてしまいます。
「そんなにバレエがやりたいなら、ここで踊ってみせろ!」とビリーをテーブルに立たせ、挑発するトニー。「そんな必要ない!」と怒り心頭のウィルキンソン先生に挟まれて、ビリーも限界を迎えてしまいます。 結局、受験の機会を逃してしまったビリー。そもそも、たとえ合格したとしても親に反対されてる限り、バレエを続けられるわけもなく…… 言葉に出来ない激しい気持ちが足元から沸き上がり、地団駄となり、ビリーは怒りをダンスに昇華していきます。
Angry Dance ~怒りのダンス~
ビリーの歌はなく、ただただ怒りに任せた激しいタップダンスの音が響きます。時折バックに流れるのは労働組合と警察の衝突するコーラスと、白鳥の湖のテーマ。自分の置かれた現状と、手の届かないところにある憧れをバックの音楽で表現しているのですね。
先述しましたが、うめこは元々原作映画が大好きでした。それがミュージカル化!とニュースを聞いてから「観たい!観たい!」と思いつつも、サクッとロンドンに行けるわけもなく。輸入販売のCD を買って、何度も何度もどんな舞台なのかを想像しながら音楽だけを聞いていました。中でも、ビリーの歌のないAngry Danceはタップダンスの激しさから、熱気が直で伝わってくるのです!ようやく映像で観るこのとできたトニー賞でのパフォーマンスは、涙が出そうでした。さらにその数年後、ようやくブロードウェイで初めて観劇したときは、冒頭の第一声から震えっぱなしでしたね。

「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャーの時代。ストライキの激しさが、舞台でも音楽と共に繰り返し描かれます。主人公の置かれた環境が炭鉱労働者に囲まれているので、セリフや歌詞でサッチャー首相をディスることディスること!
その頂点がクリスマスシーンでの歌。
Merry Xmas,Maggie Thatcher We all celebrate today Cos it’s one day closer to your death.
『Billy Elliot the musical』Book and lyrics by LEE HALL , Music by ELTON JOHN “Merry Christmas Maggie Thatcher”
メリークリスマス、マギーサッチャー、今日この日を祝福しよう!何故って、お前の死が近いからさ
『ビリーエリオット ザ ミュージカル』脚本・歌詞 リーホール、音楽 エルトン・ジョン “Merry Christmas Maggie Thatcher”
うめこの拙い訳でお恥ずかしい・・・
とりあえず、歌詞の過激さをなんとなく感じてもらえればいいかなと思います。
初演の2005年当時、もちろん現役は引退しているもののサッチャー女史はご存命。ストライキ最盛期の雰囲気を描くことを優先したのでしょうが、中々の歌詞です。これは日本じゃ難しいのかなー。
クリスマスの空気にはしゃぐビリーとマイケルは、普段バレエ教室の行われている公民館のような場所へやってきます。そこで、マイケルは憧れのチュチュを試着し、大興奮。やばい!やばい!と受かれるマイケルは、いつも観客の爆笑ポイントです。どの公演を観ても、マイケルは人気ですね。
そこへ、マイケルと入れ違いにやってきたのはなんとお父さん。 気まずい空気が流れる中、ビリーは何も語らずに踊り出します。ここは、映画も舞台も本当に美しい!もう言葉でわかってもらえないのなら…!という覚悟がビシバシ伝わってきます。ビリーのバレエに対する本気を感じたお父さんは、その足でウィルキンソン先生の自宅へ走ります。
「いくらかかるんだ、バレエをやらせるには」どストレートな質問に、お父さんの必死さや真剣さがにじみ出ていますね。先生も冷静に答えていきます。「まだ、ロイヤルバレエスクールを受験をするチャンスはある」と先生が教えると、お父さんは帰り道ある決意をします。ビリーを受験させるにはお金がいる。そして、ひとつだけお金を得る手段がある。
それは、ストライキを裏切って閉鎖まで炭鉱で働き、お金を貰うこと。
今までもスト破りをしているかつての仲間に組合が罵詈雑言を浴びせるシーンがありましたが、お父さんがその立場になってしまったのです。 その姿を見て、驚愕する仲間と、ビリーの兄。泣きながら殴りかかってくる息子に、お父さんは振り絞るような声で言います。
「ビリーにバレエをやらせてやるんだ!俺たちはもう終わった人間だが、あいつには未来がある」
He could be a star for all we know
We don’t know how far he can go
『Billy Elliot the musical』Book and lyrics by LEE HALL , Music by ELTON JOHN ”He Could Be A Star”
あいつはきっとスターになれる
俺たちの知らない遠くへと行けるはずなんだ
『ビリーエリオット ザ ミュージカル』脚本・歌詞 リーホール、音楽 エルトン・ジョン ”He Could Be A Star”
はい、もう毎回号泣ですよ。
うめこは『赤毛のアン』でマシューが「10人の男の子より、お前がいい」と言うシーンで必ず泣くのですが、このお父さんの歌も本当に本当に素晴らしい。
兄との魂のぶつかり合いのようなデュエットなんですよね。今まで強い誇りと信念で頑張ってきたお兄さんの気持ちも、ビリーを思うお父さんの気持ちも、どちらも切実です。
そこで動いたのは組合の仲間たちでした。彼らは自分たちの生活も苦しい中、ビリーの受験ために精一杯のカンパをし始めます。そのお金を握りしめて、お父さんの付き添いのもと、ビリーはとうとうロイヤルバレエスクールの受験のため、ロンドンへ!ここでビリーが受験をしている間、スクールをうろうろしているお父さんが最高に可愛いのです。他の生徒の父親と雑談しても、お互い訛りが強くて伝わらない(笑)どこでタバコを吸えばいいのかわからなくてそわそわし、タイツ姿の男性ダンサーにびっくりし。
一方、ビリーはなんと他の受験生に馴れ馴れしく触れられたのに激怒し、殴るという事件を起こしていました…
ビリーのキャラクターも一筋縄ではいかなくて、素直な良い子では全然ないところが面白いんですよね。むしろ、超生意気。ウィルキンソン先生にはじめてロイヤルバレエスクールを薦められたときの返しが「先生、僕に気があるの?」でしたしね。
でも、だからこそこの子なら戦場のようなバレエ界でやっていける逞しさがあるように思えてくるんです。
さて、不貞腐れるビリーとお父さんはスクールの先生達の前で面談を受けることになりました。「この学校でやっていくなら、いかなる時も暴力は絶対にだめ」と当たり前のことを諭されるビリー。また、「親からのあらゆる支援が必要となります。あなたは、彼にすべてを与えることができますか?」と率直な問いがお父さんにも投げ掛けられる。「与えます」と答えるお父さん。彼を見つめるビリー。面接を終えて立ち去ろうとする二人に、最後の質問が。
「ビリー、あなたは踊っているとき、何を感じている?」
ここからが、うめこ的にはミュージカルの歴史に残る名場面。
Electricity
I can’t really explain it,
I haven’t got the word’s
省略
Like electricity,electricity
『Billy Elliot the musical』Book and lyrics by LEE HALL , Music by ELTON JOHN ”electricity”
うまく説明できないんだけれど
言葉が出てこない・・
それはまるで電気のようで。
『ビリーエリオット ザ ミュージカル』脚本・歌詞 リーホール、音楽 エルトン・ジョン ”electricity”
たどたどしい言葉が次第に熱っぽくなり、とうとうダンスが始まる!
『白鳥の湖』のモチーフが流れるダンスナンバーです。ビリー役は声変わり前の少年が演じるのが鉄則なのですが、そんな幼い子がなんて躍りを…!と毎回、どの公演を観ても感動します。演じている少年たちも、まさにビリーなんですよね。これからダンサーになるために厳しい世界に飛び込もうという。
そして場面は転換し、そわそわとビリーの合否通知を待つ家族たち。やっと郵便がきたものの、結果が知りたいお父さんとおばあちゃん、「ビリーが見るべき!」と譲らないトニー。彼はAngry Dance のときは本当にろくでなしかと思ったのに、この変わりよう。根っこには信頼のある家族だったんだとしみじみ感じます。やがて帰宅したビリーが部屋で通知を確認するのを、家族は固唾を飲んで見守ります。
結果は……合格!!
男二人の喜びようがもう半端ないんです。家族が夢を真剣に応援してくれるのって、本当に幸せですよね。しかし、そこに組合の仲間が「ストライキは終わった」と、闘いの負けを告げに来ます。未来と、終わったものとの対比が辛いほどにくっきりと描かれるシーンです。
ロイヤルへと旅立つビリーと、終わりの見えている炭鉱へ潜る大人達が舞台上に重なります。同時に、地下へのエレベーターの機械音楽が重く響きます。
神か!と叫びたくなる演出です。
最後にビリーを見送るのは、親友マイケル。ビリーはなんと舞台を降りて、観客席の間を歩いて出ていきます。この演出も神。
これで、ミュージカルは終わり…と思いきや、楽しいカーテンコールがはじまります。これも舞台の醍醐味ですね。
色々書いているうちに、また観たくなってきました。本当に音楽良し、演出よし、ストーリー良しの名作なのでございます。ここに役者良しが加わったら、本当にどうなってしまうのか・・・
そこで付け足しですが、この作品、今度日本でも公演が予定されています!お父さん役にはなんと!!あの吉田鋼太郎さん!
『おっさんずラブ』のヒロインが、あの厳しく可愛いお父さんを演じます 。
最初はざっくりと紹介をしようと思っていたのですが、ついつい力が入ってしまいました。少しでも、『Billy Elliot the musical』の魅力が伝わりましたら幸いです。
ではでは。
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