倫理とは、生きるための勉強。うめこ的に今年一番のヒット漫画『ここは今から倫理です』(雨瀬シオリ 集英社)感想※ネタバレあり

こんばんは、うめこです。

学生の頃に習った事って結構断片的に覚えてたりしませんか。うめこは「倫理」の授業って実はほとんど印象に残ってなかったのですが、なんとなく「アガペー」っていう言葉は覚えてたんですよねー。それを同じ学校の友人と話したところ、皆同じように「アガペー」はすぐに出てきてお互い驚いたということがありました。

印象に残っていないとか冒頭で言っておいて何ですが、本日は「倫理」がメインテーマの一風変わった漫画をご紹介です。

『ここは今から倫理です。』(雨瀬シオリ 集英社)

 
ここは今から倫理です。 1 (ヤングジャンプコミックス)

初版は2017年の作品で、うめこは発売当時から何となく気になっていたのですが、表紙の第一印象が暗すぎて中々手に取らなかったのですよね・・・。しかし、一度読んでみたらたちまちお気に入り漫画上位に食い込んできました。ほんっとにいい漫画なんですよ!

今も人におすすめするときは「表紙は怖そうだけど、そこまで怖くないから取りあえず読んでみてー!」と、押し付けさせていただいてます。

ジャンルは教師が主人公の学校ものとでも言いますか、うめこの中では『GTO』(藤沢とおる 講談社)と同じカテゴリーに入れていたりします。とはいえ、『GTO』の鬼塚は自ら率先して時には(ほとんど?)非常識な行動力を発揮して、おせっかいなほどに生徒の内面や事情に頭を突っ込んで問題を力技で解決していく爽快感のある作品でしたが、この『ここは今から倫理です。』の主人公高柳先生は鬼塚とは正反対で、「行動」ではなく「言葉」で生徒に影響を及ぼしていくタイプ。

しかも、教師と生徒としての一定の距離はしっかりと保つ姿が印象的なんですよね。

「倫理」とは学ばずとも困らない学問?

 
ここは今から倫理です。 2 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

まずはあらすじを。

「倫理」とは人倫の道であり、道徳の規範となる原理。学ばずとも将来、困ることはない学問。しかし、この授業には人生の真実が詰まっている。クールな倫理教師・高柳が生徒たちの抱える問題と独自のスタンスで向かい合うー。

『ここは今から倫理です。』第一巻 雨瀬シオリ 集英社 裏表紙より引用

正直言いまして、「倫理」という学問ジャンルのことをうめこもここ最近まですっかり忘れていたのですよ・・・。ただ、この漫画を読んでみて「もうちょっとちゃんと勉強しておけばよかった・・・!」と思いました。

作中の「倫理とは何か」を先生が語るセリフがとてもわかりやすかったので引用させてもらいます。ちょっと長いのですが、これが本当にいい説明ですので是非是非読んでいただきたいです!

倫理は学ばなくても将来困る事はほぼない学問です

地理や歴史の様に生活する上で触れる事は多くないし 数学の様な汎用性はんようせいも 英語の様な実用性もありません

この授業で得た知識が役に立つ仕事はほぼ無い この知識がよく役に立つ場面があるとすれば死が近づいた時とか 倫理は主に自分がひとりぼっちの時に使う

信じられるものがなくなった時 死が目前に迫った時 人は宗教による救いを求める

“宗教とは何か”

人間関係がうまくいかない 他人を羨んで妬んでうまく生きる事が出来ない 

“よりよい生き方を考える”

悩みが絶えず苦しい・・・憂鬱・・・私は何のために生きている?昔の哲学者たちは生涯をかけ悩み続けた

“幸せとは何か”

「男はこうあるべき」とか「女はこうしなきゃダメ」とか・・そんな事誰が決めた?

“ジェンダーについて”

「死にたい・・・」 “いのちとは何か”

どうですか 別に知らなくてもいいけれど知っておいた方がいい気はしませんか

『ここは今から倫理です。』第一巻 雨瀬シオリ 集英社 17頁~20頁より引用

文字だけだとつるつる滑ってしまうかもしれませんが、この漫画の「倫理」に対するスタンスがぎゅっと凝縮されているセリフなんです。これを新学期、授業の始まりに生徒たちに主人公高柳先生が語っています。

うめこはこれを読んだときに、「何だか倫理って心理学と重なるところが多いなあ?」と思いました。倫理のことをすっかり忘れていたうめこですが、数年前から「楽しく生きていくためには心理学もしっかり学んでおかなくては」と思っていたんです。そこでちょっと無い頭を捻ってうめこなりに整理したみたのですが、

倫理・哲学・・・文学的・宗教的なアプローチで、人生の問題・心理について考えるもの

心理学・・・臨床的・統計的・医学的なアプローチで、人の問題・心理について考えるもの

かなーと。つまり、最終的な目的は近いものの、そこへ至る方法が違うってことなのかなーと。プラス、心理学は「問題解決」だけを目的とするのではなく、心理現象そのものについても考えていくものである・・・とか。ちょっと書きながらこんがらがってきました。まとまらず、すみません!

あくまで、上記はド素人うめこの個人的な見解ですので、色んなご意見があると思います。というか、むしろ色んな方のご意見や見解を聞いてみたい・・・!!

随分と脱線してしまいました・・・漫画の話に戻ります。

『GTO』が鬼塚の我武者羅な行動によって問題解決していくのに対しこの作品が「言葉」によって生徒に影響を与えてくと前述しましたが、さらに言うと「生徒の問題に対して先生は決して深く追求したり無理やり解決しようとはせず、あくまでそれを解決すべきは生徒自身であり、先生はそのための考え方のヒントを与える」というのが基本的なスタンスなんですよね。これが、本当に今までにない、ある意味現代的な教育の姿なんだなあと思うんです。

うめこのお気に入りの話の一つが「♯8 普通の人間」。

この話で主人公となるのは高柳先生の生徒である男子学生です。一緒に軽いやんちゃをする友人はいるもののそこまで悪いことに手を出すわけでもなく、家庭環境も問題なく、成績も優秀ではないが赤点でもなく。「自分はたくさん普通の人間のひとり」であると考えています。

そんな彼が、ある日交通事故にあって入院することになってしまいます。しかし、それも重症ではなくちょっと頭に包帯を巻いて安静にする程度。

そこに担任の先生の代理として高柳先生がお見舞いにやってきます。授業に出ているものの、一度も会話すらしたことのはい高柳先生の登場に焦るものの、先生の頓珍漢なお土産に笑ったり、次第に生徒の気持ちがほぐれてきます。

そこで、生徒がぽつりと「気が付いたらトラックの前に出ていた」と告白します。

病んでいたわけでも 悩んでいたわけでもないんだぜ

死にたいなんて・・・一度も思った事ない

でもいっこだけ思った事があって・・・“目立ちたい”って・・・一歩前に出たくなったんだ

普通に信号を待ってんのが嫌だったんだ 埋もれたくなかったんだ

『ここは今から倫理です。』第二巻 雨瀬シオリ 集英社 101頁~102頁より引用

これが従来の物語だったら、まずトラックの目に自ら踏み出したことへの言及が始まっていたのかなと思います。

しかし、この作品のメインテーマは「倫理・哲学」ということで、続く高柳先生の言葉は一味違います。

貴方は悩んでいたのですよ 必死で考えていたのです 自分が何者なのかを・・・

そして貴方は自力で・・・なんであんな行動を取ったのかの答えを考え出した・・・

貴方は自分がどんな人間なのか“自覚”した

他の人間に比べて能力が優ってるか劣ってるかなんてどうでもいい

貴方が貴方という“人格”を有した それが一番素晴らしい

『ここは今から倫理です。』第二巻 雨瀬シオリ 集英社 104頁~105頁より引用

あえて「目立ちたいとトラックの前に一歩踏み出した」行動について責めるのではなく、

「どうして自分がこういう行動を起こしたのか」ときちんと自問し、答えを出したこと自体について賞賛しているんですよね。

うめこが高柳先生を新しい視点の教師像だと思うのが、こういうところなんです。

名言の引用が絶妙!

 
ここは今から倫理です。 3 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

この漫画の魅力として、倫理の先生らしく偉人の名言がそこかしこに、それも絶妙に散りばめられているところなんですよね。

先ほどご紹介した「♯8 普通の人間」では生徒に対して

“悩まぬ豚よりも 悩めるソクラテスであれ”(※J.S.ミルの言葉)

どんどん悩んでいいと私は思う。どうすれば特別な人間になれるのか・・・悩みながら生きましょう

『ここは今から倫理です。』第二巻 雨瀬シオリ 集英社 110頁~111頁より引用

そして、うめこが本当に衝撃を受けたのがこのエピソード。

「♯13 自分の為の勉強」より。

これは教育熱心な母親の期待に応えようと必死で勉強をするものの、成績が思うように伸びずに悩む生徒の話です。自分の代わりに大学を選び、パートをして学費を稼いできてくれる母親に感謝するものの、いつしかその圧力に疲れて勉強をする手を止めてしまいます。

そこで偶然図書館で会った高柳先生は「疲れているなら休みなさい」と忠告しますが、生徒は「自分は頭が悪いから勉強しなくてはいけないし、休んだらお母さんが心配する」と反論します。

この男子生徒が母親の善意に静かに追い詰められている描写が本当に繊細に描かれていて、じわっとくるものがあるんですよね・・・この漫画は時に暴力シーンがあったりして派手なエピソードの回もあるのですが、こういう一見地味な話もとてもとても丁寧に作られているのが本当に素晴らしいんです。

その生徒に対して、先生は勉強は本来とても楽しいことであると言い、こう続けます。

大学へ進んだら 貴方は“自分のための勉強”をして下さいますか?

誰の為でも 何の為でもなく 自分の為だけに

ホッファーは言いました

“他者への没頭は それが支援であれ 妨害であれ 愛情であれ 憎悪であれ

つまるところ 自分から逃げる為の手段である”と。

※ホッファー・・・アメリカの社会哲学者。“沖仲士の哲学者”と呼ばれる。 

『ここは今から倫理です。』第三巻 雨瀬シオリ 集英社  111頁~113頁より引用

うめこはホッファーを全く知らなかったのですが、この言葉にはものすごい衝撃を受けました。

人を変えようとか過剰に関わろうとしてしまっている時って、本当はその人の為なんかじゃなくて自分の欠けている部分を無意識に他者への干渉で埋めようとしているんじゃないかってことですよね。

この生徒は母親の干渉があくまで「自分のためである善意」だと固く信じているからこそ、期待に応えらない自分を責めてしまっているのですが・・・つまるところ「母親が自分自身の問題から逃げる手段」として生徒を使っているということを先生が結構辛辣に指摘しているんですよね。

この「貴方の為を思って」→実は自分の為 という現象は日常でメチャクチャ良くあることだと思うんですよ。うめこも自分の行動には気を付けていきたいです・・・

他にも、自分は何でも知っていると思い込む女子学生に対して放った、

“誰もが自分の視野の限界を  世界の視野の限界だと思っている”

ショーペンハウアー

※ドイツの哲学者。生の先駆者として知られる。

『ここは今から倫理です。』第1巻 雨瀬シオリ 集英社  80頁より引用

これもはっとさせられる名言です。そしてちゃんと哲学者のことも注釈があるのが便利。

ちょっと今回は引用や説明が多くなってしまったかもしれませんが、テーマは重くてもとってもわかりやすくて取っつきやすい作品です!本当におすすめ!

これを読んで、いつか高校の倫理の教科書を買って読んでみたいなと思いました。

ちょっとでも興味を持っていただけたら嬉しいです。

ではでは。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました