想像したこともない現実が、確かに存在していることを知る『絶対貧困 世界リアル貧困学講座』石井光太 新潮社

こんばんは、夏でリズムが狂いまして、更新も筋トレもさぼってしまったうめこです。

題名は覚えていないのですが、昔読んだ本で「金持ちの姿はどこも同じ。底辺の暮らしこそ、その国の特色が現れる」というような文があったのですが、色んな文化に触れる度に思い出します。 類似のものとしては「 国の偉大さと道徳的発展は、その国における動物のあつかい方でわかる 」という言葉もありますね。

 
絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)
 

今回紹介する書籍『絶対貧困 世界リアル貧困学講座』は、まさに世界の「経済的どん底」ダイジェストとでも言うべき一冊。著書の石井光太氏は主にアジアの貧困層の生活について多くのルポルタージュを書いている方で、3.11について綴った『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)が話題を呼びました。

うめこは石井氏の著書は何冊か読んでるのですが、その中で一番読みやすかったのが本書でした。彼の着眼点や貧困層への考え方については共感していますので、その行動力もとても尊敬できる方なのですが、たまに「これは小説?……ルポルタージュ?」と首を傾げてしまうような表現があるのが気になる著書も正直ありました。

うめこは小説でもスパスパ冷静冷徹に切り込むような冷たい文体が好みなのですが、ルポルタージュについては尚更、空想や感情はある程度抑えて、現実を真っ直ぐに描写するタイプの文章を心地よく感じます。しかし、石井氏はたまに「ちょっと物語的過ぎないか・・・?」と思ってしまう表現をしたりするので、うめこにとってむずむずしてしまうときがありました。

色々な考え方があると思いますが、うめこ個人としては「ルポルタージュの著者の視点は物語の主役でなく、語り部に徹している」タイプが好みということですね。繰り返しますが、いい悪いではなく、あくまで好みの問題だと思っています。

その点、この『絶対貧困』は「学校での講義」を想定した構成をしているからか、感情的な部分はなく、現実を切り取ったルポルタージュとして素直に読むことが出来ました。

本書は「第一部 スラム編」「第二部 路上生活編」「第三部 売春編」の三部から構成され、時にはクラクラしてしまうような厳しい現実が描写されます。序文「講義のはじめに」の一部を引用させていただきますと、

※本書では、世界の貧困社会の現実をありのままに述べています。

 最貧国地域における人々の暮らしは、ハンセン氏病をはじめ様々な病気や障害についての誤った認識や先入観に基づいている場合が多々ありますが、ここではそうした現地の誤認も一つの事実として捉えた上で問題を直視し、記述しています。

 また、文中の表現や描写に一部差別的な部分や不快ととられる点も含まれていますが、これが世界の貧困地域で現在起きている出来事であることをお伝えするために、あえて明記しました。

『絶対貧困 世界リアル貧困学講座』著者:石井光太 新潮社 5頁~6頁より引用

この石井氏のポリシーにうめこはとても共感しています。本当にきつい現実があるものの、それに対してどう思うかどう動くかはあとで考えるとして、まずはありのままを「知る」ことが大切なのだと、いろんな場面で思うことがあります。

貧困層こそ肥満が多い?!スラムの食べ物事情

皆さま、「貧困層」と聞いてどんな姿の人々を思い浮かべるでしょうか。うめこは単純に貧困=思うように食べられない=痩せているという図式から、痩せた人々を想像してしまっていました。しかし、石井氏の語るスラムの現状としては「意外と肥満の人が多い」というのです!

何故そんなことになるかというと、お金がないからこそてっとりばやくカロリーを摂取できる油物や安い肉を食べ、野菜は食べないからという現代ならではの栄養不足問題があるからだそうです。アメリカでもその問題は顕著だとか。低所得層は安価で満足度の高いファーストフードを食べ、富裕層は高いお金でオーガニック野菜を買い、ジムで体型をキープする・・・お金持ちがふくよかという想像は、もはや過去のものということですね。

食べ物に関しては辺見庸『もの食う人びと』(角川文庫)という素晴らしいルポルタージュもあります。これは世界の様々な地域の「食」から、人々の生身の生活を抉り出すという名著なのですが、その中にもスラムの食事の描写があります。この中で驚愕せずにはいられないのが、バングラディシュでの「残飯市場」という存在なんです。なんと金持ちが食べ残した残飯を扱うマーケットが存在し、残飯が立派な商品として卸売・小売までされているという事実!本当にうめこは何にも知らないのだな、と思い知った一冊でした。日本に輸出される猫缶工場で働く少女や、チェルノブイリ近郊に暮らす老人たち等胸を抉るような話を多いですが、本当におすすめです。

 
もの食う人びと (角川文庫)

同じ路上生活でも、アジアとアフリカではこんなに違う

うめこがとても興味深く読んだのが、「路上生活」という状況を切り取っただけでも、そこに文化や民族、治安の違いが顕著に表れるというところ。

アジアの路上生活者は親族ごとや、いくつかの家族が集まってグループを形成することが通常なのに対して、アフリカはきっちりと「男だけのグループ」「女だけのグループ」と性別毎に分かれると石井氏は説明します。

アジアの路上生活者は家族同士の助け合いや相互監視が強く働くため犯罪率も比較的低く、庶民との軋轢も少ないのだそうです。路上生活者同士で結婚して夫婦となることも普通にあります。

一方、アフリカの路上生活は過酷そのもの。特にアフリカは、非常に女性の権利が低く考えられている文化が根強く存在し、そんな男性の暴力に対抗するために女性同士で結束し、防御するグループを作らざるをえない状況に追い込まれているのだそうです。またHIVの感染率もアジアとは比べものにならないくらいに高いので、家族としての集団が育ちにくい傾向にあるそうです。

この部分を読んだとき、うめこは『砂漠の女 ディリー』(ワリス・ディリー 草思社)を思い出しました。これはアフリカ大陸の国、ソマリアで生まれ育ち、過酷な生活からなんとか脱出して成功を掴んだ女性の自伝なのですが本当に本当に同じ女性として辛い描写が多く、目をそらしてはいけない現実を思い知らされます。

 
文庫 砂漠の女ディリー (草思社文庫)

子どもに物乞いをさせるとき

2009年にアカデミー賞作品賞を受賞した『スラムドッグ・ミリオネア』でも描写がありましたが、インドには「レンタル・チャイルド」という恐ろしい商売が存在します。

あまり気持ちのいい話ではないですが、物乞いの世界にもランキングが存在しているそうです。

難病、手足の欠如などの身体的なハンデがある人ほど得るお金は多く、それが子どもであればさらに物乞いとしての価値が跳ね上がる・・・と。うめこも、説明するのきつくなってきました。

そこで、健康な子どもに危害を与えて物乞いをさせるということが行われている現状があるそうです。『スラムドッグ・ミリオネア』では主人公たちがその陰謀から命からがら逃れることが出来ましたが、現実はそうも行きません。

この恐ろしい商売については、石井氏は丸々一冊でさらに詳しくレポートしています。ただ冒頭で述べた通り、うめこにとっては少し苦手な文章での本だったりします。しかし、今ぱらぱらと読み返して思ったのですが、これは完全に小説として石井氏は書いているのかもしれない?とも思いました。小説を思って読む分には・・・いけるかもしれません。内容自体は本当に過酷ですので、覚悟が必要です。

 
レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち (新潮文庫)

今回は少しキツメの説明が多い記事となりましたが、最後に石井氏の言葉を引用させていただきます。

「救うべきかわいそうな貧困者」という画一的な視点ではなく、様々な人々がいて、様々な日常があり、様々な感情があるということをお話するように心掛けているのです。

『絶対貧困 世界リアル貧困学講座』著者:石井光太 新潮社 320頁より引用

辛い現実に対して、どう思うかはすべて個人に委ねられています。その現実を見るか目をそらすかも、個人の自由です。

それでも世界を広げたい、見ていなかった場所を見てみようと思った時、こういったルポルタージュが足がかりになることもあるかと思います。少しでも参考になりましたら。

ではでは。

 

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